爛熟と頽廃の世紀末ウィーン。 オーストリア貴族の血を引く双子は、ある秘密のため、 引き離されて育てられた。ゲオルクは名家の跡取りとなって 陸軍学校へ行くが、決闘騒ぎを起こし放逐されたあげく、新大陸へ渡る。 一方、存在を抹消されたその半身ユリアンは、 ボヘミアの「芸術家の家」で謎の少年ツヴェンゲルと共に高度な教育を受けて育つ。 アメリカで映画制作に足を踏み入れ、成功に向け邁進するゲオルクの前にちらつく半身の影。 廃城で静かに暮らすユリアンに庇護者から課される謎の“実験”。 交錯しては離れていく二人の運命は、それぞれの戦場へと導かれてゆく―。 動乱の1920年代、野心と欲望が狂奔する聖林と、鴉片と悪徳が蔓延する上海。 二大魔都を舞台に繰り広げられる、壮麗な運命譚。 ****************************** まだまだコンプリートに程遠いにわかファンの私。 それでも海外を舞台にした作品よりも国内ものの しかも短篇集の方を好む傾向にあったので、 正直なところ本作に対し然程期待感を持っていなかったのです。 ですが! これは完全にやられました・・・ それは多分、舞台芸術好きの私が強烈に惹かれ続けている 京劇であったり、生涯大切にしたいガルシンの小説に 言及してあることも大きな要素ではあるのですが、 互いを個と強く認識することもないまま切り離された 結合双生児ゲオルクとユリアンに起こる不可思議な現象、 或いは彼らをめぐる人たちの思惑や愛といったものが ハリウッドや上海、ウィーン、ドイツなどといった 色彩の異なる他国の歴史や映画史を交えつつ見事に交錯し、 更にその潮流の果てにおとずれる 清々しいまでの覚悟を決めたユリアンの言葉が 哀切と浄化を伴う感動をもたらしてくれたからにほかありません。 読書欲が一向に復活せぬまま ショッピングついでに訪れた約一年ぶりとなる図書館。 たまたま開架で見つけ持ち帰ってきた本でしたが 久しぶりに本を抱きしめたくなる感覚を味わえました。 本当にありがたい。 これを機に昔の感覚がもどるといいなぁ。 それにしても齢80を超えてもこのレベルって・・・ 本当に素晴らしいことですね。 お気に入り度:★★★★★★★★★★ Top▲ |
by la_lune11
| 2013-06-17 11:38
| ・読書:ま行の作家
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